辻家の人々

【連載小説「辻家の人々」】010 野球部から読書部へ/辻ヤスシ

※この記事は許可を得て「アジト(note版マンガ雑誌)・辻家の人々010」より転載しております
※転載元はこちら
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

中学校入学と同時に野球人生をスタートさせた自分。これまでの人生、野球はプロ野球観戦がメインでプレイした経験は皆無に等しい状態だった。

それでも体力測定では常にクラスの上位に位置するほど運動神経は抜群だったため、野球経験が少なくてもすぐにレギュラーになれる自信があった。

ところが、現実は違った。

それは自分の運動神経や野球の実力云々ではなく、野球部の体制に問題があった。自分の通っていた中学校は市立中学であり、野球の名門ではない。部活動はあくまで教育の一環で、勝つことが1番ではない。

それ故、スタメンは実力関係なく3年生が張る完全年功序列体制。そこまではまぁ仕方ないと理解できた。しかし、問題は練習内容だった。

1年生はランニングなどの基礎体力トレーニングがメイン…ですらなく、球拾いのみ。父親に買ったもらったグローブは球を「拾う」ためだけに使い、球を「取る」という本来の使い方を出来ないまま、3か月が過ぎた。

もう限界だ…そう思ったのは先輩から4度目の’’可愛がり’’を受けた時だった。

同級生皆が野球をさせてもらえないだけでなく、何かとイチャモンをつけて先輩に体育倉庫に呼び出される。顧問の先生も見て見ぬふり。やってられるかと退部届を提出しにいった。

その時、先生から告げられた言葉に自分の耳を疑った。

「頼む、やめないでくれ。アノ辻の息子が野球部をヤメたとなったら俺が周りから変な目で見られる」

今思い出しても腹が立つ。

元々、野球部も野球がやりたいという強い気持ちを持って入部したわけでもない。未練は全くなかった。

そして自分は、次の日から読書部という名の帰宅部に入部したのだった。

© 2021 TATSUMI PUBLISHING CO.,LTD./Scholar Magazine .,LTD.