辻家の人々

【連載小説「辻家の人々」】030 同窓会

第82回全国高校野球選手権埼玉大会開幕に伴い、大宮県営球場で開会式が行われた。

春季大会で準優勝を果たした我が校は、シード校として大会に出場する。そのため開幕式当日に行われる第1試合はないのだが、当然開会式に出るために会場へと向かう。

開会式なんて大層に言っているが、「クソ暑い中で行進をし、そこから連盟のお偉いさんの長い話を聞くだけの面倒くさいモノ」として捉えていたが、球場へと向かうバス内での先輩たちはやけにテンションが高かった。

理由を尋ねると、この開会式は中学時代のチームメイトとの同窓会だからという答えが返ってきた。それを聞いて僕は、先輩とは逆に憂鬱になってしまった。

中学校時代は実力がなく、ほとんど試合に出られなかったヤツが1年生の夏から背番号をつけていたら、元チームメイトはどう思うだろうか。ましてや春の大会で準優勝したチームの……。

当然、「辻発彦の息子だから贔屓されて20しか枠のないメンバーに入れて貰ったんだ」と考えるだろう。これまで綴ってきた通りそれは事実だ。だからこそ、嫉妬から嫌味の一つや二つ言われるだろうと思うと、開会式という名の同窓会に出ることが本当に嫌で嫌で仕方なかった。

行進が行われる順番はノーシード校かつ高校名のあいうえお順に行われるため、僕らは第一待機所であるスタンドでOBから差し入れして貰ったジュースを飲みながら時間を潰していた。すると、次から次へと他校の生徒が集まってきてあちらこちらで先輩たちの同窓会が始まった。

僕は中学時代のチームメイトが来ても気付かれないように端の方で下を向いていたのだが、早々に見つかって声をかけられた。声の方に顔を向けると、そこにいたのは中学時代に似たような体格を持つ者同士で同じポジションを争ったAだった。ポジション争いはAに軍配が上がり、Aはレギュラーとして試合で活躍していた。

「久しぶり。ってか背番号貰ってんじゃん」

Aは半笑いでそう言った。。

決して悪いヤツではなかったが心の声が顔に出るタイプの人間だった。ほとんど予想通りの言葉と表情だった。Aは心中で「なんで? お前の実力で? 」と言っている――そこからしばらく話をしたが、実のところ話の内容はあまり覚えていない。

それは自分自身に引け目を感じている、ということ以上に「ある違和感」があったからだ。違和感の正体が何なのか気になっていたが、その場ではわからなかった。

しばらくして、行進の順番が近づいてきたことで僕らは第二待機所となる競輪場へと移動することになった。Aと別れ、ぞろぞろと競輪場へと歩く。

競輪場での待ち時間でも、そこかしこで同窓会が開かれていた。僕はスタンドにいた時と同じく端で小さくなっていたが、今度は別の同級生Bに話しかけられた。Bは中学生の頃から体が大きく、チーム内でもずば抜けた野球センスの持ち主だった。

Bは野球推薦で強豪校に進学したはずだが、この競輪場で待機している=「背番号を貰った選手」となるため、流石だなと感心した。声を掛けられた時、僕は地べたに座っており、相手は立っていた。それからしばらくお互い同じ体制で喋っていたため、流石に見上げて話し続けるのもしんどいと立ち上がった瞬間、Bが目を丸くしてこう言った。

「お前、めっちゃデカくなってね!?」

確かに、中学生のころ僕より一回り…いや、二回り以上デカかったBがそれほど大きく感じなかった。僕の身長はそれほど変わっていない。ということは、高校に入学してから4ヶ月の間でこなしたきつい練習で筋肉がつき、縦よりも横…厚みが出たということだろう。

もちろん、野球は体の大きさで勝負するスポーツではない。それでも、この4ヶ月間、死に物狂いで練習に励んだ結果が形として表れたのが嬉しくもあり、自信となった。そして、先ほど感じた違和感の正体もコレだと納得できた。スタンドで会ったAは、かつてより小さく見えていたのだ。

開会式後も何人か同級生に話を掛けられたが、ほぼ全員が体が大きくなったことについて触れ、背番号をいじるどころか「凄いじゃん!」「頑張ってるね!」と言葉を掛けてくれた。

これが相手の素直な気持ちだったのか、はたまた本当は嫌味だったのか――、いずれにせよ自分に引け目を感じていた段階でのAの言葉には嫌味を感じ、Bに声をかけられてからは同級生の言葉を賞賛として受け取っているのだから、「自信」というものが精神に影響する作用は大きいと言わざるを得ない。

「俺は猛練習したんだ、その証拠に身体も大きくなっている」

我ながら単純だな、と少し苦笑を浮かべつつも爽やかな気持ちで会場を後にすることができたことは言うまでもない。

【辻家の人々~野球選手の息子はいかにしてスロライターになったか~】
伝説のプロ野球選手・辻発彦の息子がどんな幼少期を過ごしたのか、どんな経験を経てパチスロ必勝本ライター・辻ヤスシとなったのかを描いていくノンフィクション小説。有名人の息子ならではの苦悩や心境は、野球ファンでなくとも面白く読めると思う。

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