※この記事は許可を得て「アジト(note版マンガ雑誌)・辻家の人々013」より転載しております
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中学2年生の夏に高校野球に憧れ、野球部に再入部した。
ただ、自分が1年以上遊んでいる間、毎日練習を明け暮れていた同級生は実力を伸ばしていたため、レギュラーは疎か練習試合に出ることもほぼなかった。
それでも腐ることはなく、練習漬けの日々に耐えられたのは甲子園の舞台に立ち、観ている人に興奮や感動を与えたいという夢があったからだ。言い方は悪いが中学野球はその下地作りと割り切っていた。
そして迎えた中学3年生の春大会。
負ければ、自分たち3年生は引退となる。
正直、勝とうが負けようが構わなかった。
どうせ勝ち進んでも試合に出られるわけがない。
しかし、自分の予想は1回戦で早々に裏切られた。
ベンチで無気力に試合を見つめていた自分に、何故か声が掛かった。
最終回、1点負けている状況でランナーは1.3塁。外野フライでも同点に追いつけるが、ダブルプレーならチャンスが一転、3年生は引退となる。人生で初めて足が震えた。
その時だった。
ふとスタンドに目をやると祈るように見つめている両親の姿が目に入った。観に来るなんて一言も言っていなかったのに…。
散々迷惑を掛けた両親に良いところを見せたいという思いからスイッチが入った。
結果を気にせず思いっきりバットを振り続け、何球も何球も粘った。
その後に出たスクイズのサイン。ピッチャーの投げたボールはワンバウンドするほどに低かった。それでも無理矢理バットに当て、同点に追いつくことができた。
目元をハンカチで抑える母親、試合でも感情を出さない父親までもガッツポーズをしているのを見て、込み上げるモノがあった。
最終的に試合には負けてしまった。
途中でのドロップアウトなど、紆余曲折あった中学野球。しかし、最後は良い思い出で幕を下ろすことができたと思っている。