※この記事は許可を得て「アジト(note版マンガ雑誌)・辻家の人々014」より転載しております
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中学3年生の夏休み、自分は受験勉強に明け暮れていた。
勉強なんて当然好きではない。ただ、その勉強は苦ではなかった。理由は甲子園の道が開けた気がしていたからだった。
5月に中学野球が終わり、そこからは受験モードに突入。しかし、勉強に身が入らなかった。それは行きたい高校が中々見当たらなかったからだった。
自分の夢は甲子園に出場して活躍をすること。
ただ、中学野球でろくに試合に出られていない平凡選手をおいそれと入部させてくれる甲子園常連校などあるはずがない。
ならばと、圏外含め野球に没頭できる環境かつ毎年ベスト16~8の実力の公立高校を探した。
だが、心に刺さる高校はなかった。そんな姿を見かねて動いてくれたのが父親だった。色々な人に話を聞き、薦めてくれた高校はノーマークだった市立高校。
その高校には西武時代の同僚の息子さんが在籍しており、練習環境・実績ともに申し分ナシだという。
さらに、優秀なコーチの存在にも興味をそそられた。自分は、二つ返事で練習参加をお願いした。
練習参加の結果は散々だった。
中学野球とは走攻守のすべてのスピードが段違い。高校野球のレベルの高さを知り、かなり気落ちしたというのが正直なところだった。
そんな気分で帰路につこうとした際、例のコーチから声をかけられた。
「おい、ドラ息子。気持ちだけではカバーできない技術がある。みっちり鍛えてやるから必ず来いよ」
父親の息子ゆえにかけてもらった言葉だとは分かっている。でなければこんな下手くそにそんな温かい言葉を掛けてくれるはずがない。
それでも、だ。
この人の元で野球を学べば高いレベルまで登れる。そう確信していた。
こうして、自分の目指す高校が決まった。