※この記事は許可を得て「アジト(note版マンガ雑誌)・辻家の人々015」より転載しております
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プロ野球の一軍は基本的に火曜日から金曜はナイトゲーム、土曜・日曜はデイゲーム、月曜は休みもしくは移動というサイクルでシーズンを送る。
自分が生まれた時から既に父親は一軍でレギュラーを張っていたため、平日の晩御飯は大抵母親と2人で食べていた。
そんな辻家の食卓に変化が起きたのは1999年、自分が中学3年生の夏だった。
毎日のように家族揃って囲む食卓。普通の家族なら当たり前のことが、慣れないゆえに違和感でしかなかった。加えて、元々口数の少ない父親だったが、無言に近く空気が重かった。
理由は明白だった。
この時期の父親は持病の腰痛もあって一軍は疎か二軍で試合にすら出られずに病院通いとリハビリを行う日々。
年齢は39歳。そろそろだな…自分や母親も感じていた。
そして夏休みの終わりが近づいていた8月の末に父親が重い口を開いた。
「今年でやめようと思う」
覚悟はしていたが、いざ本人の口からきくと寂しさが押し寄せた。そして続けてこう言った。
「すまない」
プロ野球の世界で39歳まで現役を続けられる選手はほんの一握り。それがどれだけ凄いことで、幸せなことか、父親自身は感じていたに違いない。
家族としても同じ気持ちだった。
にもかかわらず、何があっても謝ることのなかった頑固な父親が家族に向けて謝った。その気持ちを考えると父親の顔を見ることができなかった。目の前に座っていた母親は首を横に振りながら無言で涙を流していた。
そして、父は最後に一言、
「ありがとう」
そう言った。
その瞬間、自分も涙が溢れた。こちらこそ、ありがとう。そう思った。