コラム

【連載小説「辻家の人々」】002 サラブレッド/辻ヤスシ

※この記事は許可を得て「アジト(note版マンガ雑誌)・辻家の人々002」より転載しております
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プロ野球選手の息子だからといって、必ずしも身体が強かったり、運動神経が良いわけではない。

ただ、辻家に限っては母親の身体能力も高かった。母は、小・中・高の体育の成績はすべて最高評価、体育祭では毎年リレーの選手、長距離走では市の大会で優勝をした経験アリ、さらに社会人になってからはサーフィンでブイブイ言わせていたらしい。

要するに、自分はスポーツ万能夫婦の超良血。身内は将来に期待せずにはいられなかったであろう。

ところが、その良血息子は予想と期待に反して幼いころから身体が弱かった。体力がなく、頻繁に体調を崩してはリンパ腺を腫らし、口を大きく開けられず食事をすることが嫌いだった。加えて、喘息も患っていた。

両親はそれらを何とか克服させようと考え、我が子に試みさせたのが水泳だった。3歳の時である。ただ、水泳と言っても当然競泳ではなく、浮き輪で水に浮いたり手を引っ張られて泳いだり、トレーニングともいえないいわば水遊びだ。

水泳のスクールに行った初日に事件は起こった。

良血息子は身体が弱いとはいえ大人しいワケではなく、むしろ隙あらば走り回ってしまうやんちゃ小僧。この日も周りの目を盗んでプールサイドを走り回った。そして…派手に転んでヘッドスライディングをかました。顎から大量の血を流し、すぐさま救急車で病院へ。結果、顎を8針縫うハメになった。

そんな散々な幕開けとなった水遊びだったが、何故かプールに行きたいと泣きじゃくるほど気に入ったようだった。傷が癒えてから後は水泳教室にきちんと通い続け、幼稚園に入園する頃には体調を崩すことも減り、喘息も治まっていった。

そして34歳の現在、体調を崩すのは夏に風邪を引く程度。ゲンキハツラツなバカ大人が出来上がったのは水泳のお蔭もあるだろう。ちなみに、水泳には小学校卒業まで通い続け、周囲の期待に応えるほど結果を残すことになるーー。

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