※この記事は許可を得て「アジト(note版マンガ雑誌)・辻家の人々001」より転載しております
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1985年1月21日、午前5時54分。
プロ野球選手とその妻(ごく普通の専業主婦)の間に第一子が誕生した。
10時間を超える難産だった。生まれ故郷の佐賀県でトレーニングを積んでいた父親は出産予定日に合わせて自宅のある埼玉へと帰宅。予定日とズレることなく陣痛が始まり、祖父母も駆けつけた。
ところが、陣痛が始まってから何時間待っても産まれてこない。簡単に言うと頭が出ては引っ込んでを繰り返し、中々産まれてこなかった。あまりにも出てこないため、しびれを切らした産科医は目いっぱい頭を引っ張り、赤子は強制的に産声を上げることとなった。母親は難産にグッタリしながらも安心したのか涙を流したらしいが、そんな母親の気持ちなどそっちのけで父親は開口一番、
「ヘチマみたいだな」
真顔でそう言った。母親は父親の表情とその一言で出産の疲れも我が子が生まれた安心も感動も、すべてが吹き飛び…激高したらしい。確かに、先生が力強く引っ張ったせいで信じられないほど頭が伸びていた。
それでも、だ。必死に産んだ母親を労うわけでもなく、嬉しそうに第一子を抱くわけでもなく、真顔で「ヘチマ」発言は父親としてあまりにも無神経だ。ちなみに、この件について母親は34年たった現在も根に持っており、許す気は一切ないらしい。
ーーそんなヘチマ息子は現在34歳。辻ヤスシという名でライターをしているーー
これは、「プロ野球選手の息子」という世の中では少数派の家庭に産まれ育った男と、その家族の物語である。