読み物 辻家の人々

【連載小説「辻家の人々」】037 新しいグローブ

グローブにはポジションごとに大きな特徴がある。

例えばキャッチャー用のグローブはピッチャーの速く強烈な球を受けても手に影響がないように厚めに作られている。また、外野手用は球を逃さぬように縦に長くなっている。セカンドやショート、そして僕の守っているサードといった内野手のためのグローブで重要となるのが操作性だ。取ったボールを素早く握り替えることができるように小さめの作りとなっている。なかでも、セカンドとショートはその重要性が顕著なのでより小さいグローブを使うことが多い。言うまでもなく、グローブが小さくなるということはボールを取る補給面が小さくなる。つまり、プレイの難易度が上がることとなる。

何故、グローブについて詳しく説明したのか。それは、紐が切れて新しくなったグローブに大きくかかわりがあるからだ。

グローブを父親に注文してもらった翌日、昼休みに校内放送で監督から呼び出された。駆け足で監督室に行くと

「てめぇ、ドラ息子‼貴様はまた親不孝をしたのか‼」

と、いつも通りの絡みが炸裂する。僕は「すみません」という意味を込めて右手を頭にやり、ヘラヘラと笑顔を見せた。

そして、監督から学校に届いたグローブを受け取った。さっそく教室に戻りグローブを箱から出す。皮の色は黒く縫い糸は白、これまで使っていた赤茶色より好みだった。手にはめてみると、程よい柔らかさであることに気づいた。数日使えばすぐに自分に合った形が完成する状態だ。

この程よい柔らかさは、メーカーの人が様々な技術を駆使してくれたおかげである。前日の夜にお願いしてお昼に届けてもらったことを考えると、おそらく作業は夜中になされたのだろう。あらためて気合が入った。父親はもとより、色々な方に協力してもらったのだ――変なエラーは絶対にできない。

その日の守備練習。

昼休みに入れた気合とは裏腹に、僕はまたもやエラーを連発した。グローブがまだ馴染んでいないことも多少影響しているとはいえ、あまりにも酷すぎた。そして、その理由が判明したのは練習後にグローブを手入れをしている時だった。

これまで使っていたグローブよりも一回り…いや、それ以上に小さい。これは「小さいグローブで練習して上手くなれ」という父親からのメッセージなのか、はたまたメーカーさんと父親とのやり取りで行き違いがあったのか。

大会を目の前にした息子に対して、父親がそんなギャンブルめいた課題を課すとは思えない。そうなると後者の可能性が非常に高くなる。ならば、再度父親に言って新しいグローブをお願いすればよい。…いや、そうなると夜な夜な僕のためにグローブを作ってくれたメーカーの人が父親、もしくは上司から怒られるのではないか。高校生ながらそんなことに気を回した。いや、回してしまった。

僕はこのグローブに合う技術を身につけよう。そう決心した。

翌日。僕はこのグローブでどのように球を扱えばよいか色々と試行錯誤を繰り返しながら守備練習に励んだ。いつもは必死に白球を掴むことだけを考えていたが、頭の中はグローブのことも考えていたため、集中しきれていなかったのかもしれない。

そのせいなのか、何でもないゴロを捕球しようとした際に跳ね上がったボールが右手の人差し指に突くような形で直撃した。当たった直後は痺れのような感じだったため、そのまま練習を続けたが指は次第に青白くはれ上がり、やがてボールを握ることすらできなくなった。レントゲンを見て血の気が引いた。指先の骨が二股に割れていた。当然、2週間後の大会は絶望となった。

試合は県大会2回戦で敗退。僕が出ていたら勝てたかと問われれば自信はないが、出ていない試合で負けたことにホッとしている自分もいた。この敗戦で年に2度しかない甲子園出場のチャンスが1つ消滅。残るは夏の大会のみとなった。

【辻家の人々~野球選手の息子はいかにしてスロライターになったか~】 伝説のプロ野球選手・辻発彦の息子がどんな幼少期を過ごしたのか、どんな経験を経てパチスロ必勝本ライター・辻ヤスシとなったのかを描いていくノンフィクション小説。有名人の息子ならではの苦悩や心境は、野球ファンでなくとも面白く読めると思う。

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