辻家の人々

【連載小説「辻家の人々」】033 キャプテンのあり方

夏の大会敗戦の翌日。

この日、チームの練習は休みだった。

僕は遊びに行く気にもなれず悶々としていた。原因はもちろん、前日に任命された「1年生キャプテン」だった。 今後どのような立ち振る舞いで練習や試合に臨めばよいのか……。

中学2年生から野球を始め、補欠のまま中学野球部を引退。当然、キャプテン経験はゼロ、そんな引き出しは持ち合わせていない。

高校に入ってからは3年生のキャプテンや2年生をまとめていた先輩たちの言動は近くで見てきていた。彼らに皆が従うのは、「この人が言うなら…」と周囲が納得するような野球の実力があったからこそだ。そういった意味では僕にとって参考になる人たちではない。

贔屓で試合に出ていた僕なんかに言われても誰もついてこない、陰で何か言われる、と一度払拭したはずの思いが再度湧いてきてしまっていた。

その日の夕方、珍しく父親から外食に誘われた。身長182㎝、ただでさえ目立つうえ、実家の周りはライオンズの地元だ。つまり父は外出するとすぐに「辻発彦だ」と気付かれてしまう。

ファン対応を苦手としていた父は、そのためか滅多に外食はしない。そんな父親が僕を外食に誘ってきたのは、僕が深刻に悩んでいると心配してくれたからだろう。

「キャプテンだってな」

肉を焼きながら父親は口を開いた。

僕は両親ともにそのことを告げていなかったので、情報源は父親と連絡の取れる部長だろう。面倒くさいから余計なことをするなと部長に対して若干腹が立った。そして、僕はこの先されるであろうアドバイスを素直に聞く気になれなかった。

父親は西武ライオンズでプロ野球におけるキャプテン『選手会長』をしていた経験がある(現在は別々の球団が多い)。ゆえに、どのように皆をまとめてきたか……的確なアドバイスはくれるだろう。

ただ、当時の父親は1番セカンドとして試合に出続ける有無を言わさぬ実力があったのだ。先述の3年生キャプテンたちと同じである。そりゃ、皆が納得せざるを得ない。

僕は無愛想に

「みたいだね」

そう返した。

すると父親から思いがけない言葉が返ってきた。

「背中で引っ張ればいいんじゃないか?」

一瞬で引き込まれた。そして、黙って話を聞いた。

父は、入団した初年度にいきなり2軍のキャプテンに指名されたと言った。社会人卒のドラフト2位のためチームとしては即戦力であり、当然実力はある。

ただ、いくら実力があるからとはいえ、新人がキャプテンというのは元々チームにいた選手からしたら面白くはないだろう。プロと高校野球を比べるのは大変おこがましいが、若干、僕と似た境遇な気がした。

そして、父親も同じように悩んだらしい。そんな時にコーチからアドバイスをもらったのが先ほどの「背中で引っ張れ」という言葉だったという。

「上手にまとめることなんて期待されていないと思うぞ。試合だけじゃなく、練習に取り組む姿勢、野球への情熱……チームメイトはそこを常に見ている。だから何事にも手を抜かずに頑張れ」

「ああ…」

僕は再び不愛想に返した。

だが、すでに僕の心中には今まで抱えていた不安はなくなっていた。そして、新チームへの第一歩を踏み出す景気づけかのように、美味そうに焼けた肉を口に頬張った。

【辻家の人々~野球選手の息子はいかにしてスロライターになったか~】 伝説のプロ野球選手・辻発彦の息子がどんな幼少期を過ごしたのか、どんな経験を経てパチスロ必勝本ライター・辻ヤスシとなったのかを描いていくノンフィクション小説。有名人の息子ならではの苦悩や心境は、野球ファンでなくとも面白く読めると思う。

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